迷宮の魂

 10分程して三山刑事が戻って来た。

「ガイシャの身許が判明しました。小野美幸。この部屋の契約時に確認した住民票ではそうなっていたそうです」

「住民票だとはっきり言ったんだね?」

「はい」

「その、住民票が今も不動産屋にあるかどうか、後で確認しておいてくれないか」

「判りました」

「発見時の様子は?」

「はい、隣人が丁度仕事から帰宅して来た時に、この部屋から男が勢いよく飛び出して来てぶつかったそうです。かなり男は慌てていたようで、謝りもせず走り去ったと供述しています。
 それで自分の部屋の前まで来た時に、隣の部屋のドアが開けられたままになっている事に気付き、ふと中に目をやると玄関に血の着いた包丁が見えたので、よもやと思って部屋の奥に声を掛けたらば、被害者が倒れているのが見えたそうです」

「男というのは?」

「被害者が此処に住み始めた頃から一緒に暮らしていた男らしいです。ただ近所付き合いは殆どなかったそうで、どういう人物かは全く判らないそうです」

「身許定かにあらずか。遺留品の中から犯人を特定出来る物が出てくれれば良いんだがな」

「その程度の聴き込みなら駆けつけた警邏の連中がとっくに調書取ってんだろうに」

 三山刑事の報告に加藤刑事が、あからさまに侮蔑の表情を見せた。









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