迷宮の魂
又しても険悪な雰囲気になった。三山刑事は怒りを抑えながら、
「初動捜査の基本は聞き込みであると教わりました。それに、同じ事を何度も確認して行く事で新たな真実が見つかるという事も」
と反論した。三山の言いざまに、加藤刑事は怒りで顔面を朱に染めた。
「いいか、キャリアだかなんだか知らねえが、現場に口出すなんざ十年早いっすよ。昨日今日刑事を拝命したひよっこに講釈たれられる程、一課のデカは耄碌してねえすから」
「二人ともその辺にしときなさい。今はやらなければならない事が山ほどあるんだ」
「すいません」
三山刑事が頭を下げる。加藤刑事は憮然とした表情のままだ。
「いずれにしても、同居してた男がホシなんでしょうから、そう時間も掛からずに捕まるんじゃないですか」
「加藤君、どんなに簡単そうな事件であろうとも、解決するまでは気を緩めちゃいかんよ。それと、先入観は刑事が一番持っちゃいけないものだ」
前嶋の最後の言葉に、二人は神妙に肯いた。前嶋自身も今言った自分の言葉に昔の事件を思い浮かべていた。