迷宮の魂
求人雑誌でリゾート地のアルバイトを探していた美幸は、八丈島の『エリー』というカラオケパブの募集を見つけた。
ホテルや民宿のアルバイトだと、結構拘束時間が長いと聞いていたので、他に無いかと探していたら丁度条件の良さそうなのが『エリー』だった。それに、つい最近までスナックで働いていたから、仕事的にも慣れている。夜の仕事なら、昼間は比較的自由に過ごせる筈だ。
時給やその他の条件も良かったから、早速電話をしてみると、その場で即決となった。
それが先週の話。
住み込み用の部屋には、テレビから冷蔵庫、電子レンジと何でも揃っているから、身一つで直ぐにでもいらっしゃいと言われた。
美幸は、借りていたアパートを長期間留守にする事から、友人に貸す事にし、旅行鞄に着替えを詰め、前日有明埠頭を後にしたのである。
言葉一つも交わさず、広い居間で何とも重苦しい空気に身の置き所を無くしていたが、程なく玄関が騒がしくなり、畑で挨拶をした女性がやって来た。その後ろから若い女達が着いて来たが、騒がしく感じたのは彼女達の話し声だった。
「私がママの江里子です。お店の名前と一緒でしょ」
美幸の前に座るなり、中年の女性は言った。
物音一つしていなかった部屋の中が急に騒々しくなった。若い女達が男の傍へ行き、畑で採れた野菜を手渡している。
「遠慮しないで足を崩してね。うちにいる間は、ここを自分の家だと思って構わないのよ」
「はい」
「お店は、ここから直ぐ近くにあって、営業は夜の6時から。閉店はだいたい2時位かな。その時のお客さんによるけどね。お店は年中無休だから、お休みは交代で取って貰うの。お部屋は、この裏にアパートがあって、そこにみんな住んで貰ってるわ」
「何人位働いているんですか?」
「女の子はみんなで十人。貴女を入れてね」
美幸が男の人は?と台所で立ち働いている男に目を向けながら訊ねた。