迷宮の魂
「ああ、直さんね。彼はいろんな雑用とかをしてくれているのよ。貴女達の食事とかも作ってくれるのよ」
「すっごい美味しいんだから」
こちらの話が聞こえたのか、台所に居た若い女の子の一人が、美幸の方にそう言って笑みを見せた。
「お店の掃除とか、買い物とかもね」
ママの話では、店の営業には一切関わっていないらしい。
「お給料は募集広告に書いてあった通り。一日8.000円。お部屋代や光熱費、食費は一切要らないから、丸々貯金出来るわよ」
普通、都内のスナックやカラオケパブなら、時給2.000円以上。キャバクラになれば更に高くなるが、手取りと仕事の内容を考えれば、ここの条件は悪くない。寧ろ、良い方かも知れなかった。
「今夜からお店に出て貰うんだけど、夕方の5時迄には夕食もあるから、ここの食堂に来てね。じゃあ、お部屋に案内しましょうか」
ママは男に声を掛け、美幸を部屋に案内して上げてと言った。
この家の真裏に、若者向けのロフト付きアパートが、狭い空き地を隔てて二棟並んで建っていた。一つの棟には上下三部屋があり、美幸は向かって右側の棟に案内された。鉄製の外階段を上がった二階の左角部屋が美幸の部屋だ。
中はフローリングになっていて、トイレとバスルームが別々になっていた。狭いが、一応キッチンも別に付いている。
室内は六畳で、ロフトが三畳。美幸が都内に借りている部屋と比べても全然こっちの方が良いと思った。
「新人さん?」
一目で寝起きと判る格好の女が部屋を覗き、話し掛けて来た。
その女は寝癖のままの髪を掻き、ずり下がって腰の辺りが見えてしまっているのに、穿いていたスゥエットを直しもせず、続け様に欠伸をした。
「小野美幸といいます。よろしくお願いします」
「あたしは遥。隣だから何か困った事があったら遠慮なく言って来て」
遥と名乗った女は、もう一度大きく欠伸をした。