迷宮の魂
直さんと呼ばれていた男が部屋のブレーカーを入れ、手にしていた鍵を下駄箱の上に置いた。
「鍵、置いときます」
立ち去ろうとした男に遥が声を掛けた。
「直さん、お腹空いちゃったんだけど、夕飯までもちそうもないんだ。なんか作ってくんない?」
「いいですよ」
「サンキュー。顔洗ったら食堂に行くね」
じゃあと言って男が出て行くと、遥が遠慮無しに美幸の部屋に上がって来た。
「ねえ、煙草持ってない?」
「ごめんさい。私、吸わないんです」
「そう。美幸ちゃんはどれ位居るつもり?」
「夏が終わる位までは居ようかなって思っています。遥さんはもう長いんですか?」
「一月からだから、もう五ヶ月になるかなあ。結構、居心地良いとこだよ。変な気を遣わないし」
それは貴女だけがそうなんじゃないですか、と美幸は心の中で思った。
「お店の方とかは?」
「客の殆どが島の人間で、うちらみたいな女を引っ掛けて嫁にでもしようかって魂胆が見え見えでさ、ちょっとうざったいかな。実際、別な店の子だけど、客に見初められちゃって結婚しちゃった例もあるから。まあ、のんびりやる事ね」
好き勝手に話すだけ話すと、遥は腹減ったと言って美幸の部屋を出て行った。
夕方の5時になり、向かいのママの家に行くと、他の女の子達が来ていた。ママに紹介されたが、きちんと化粧をし着飾った遥を見た時は、本人だと直ぐには気付かなかった。同性の美幸が見ても、惚れ惚れする程美しかった。
食卓に並べられた食事は、まるで旅館やホテルで出されるような豪勢さで、海の幸がこれでもかと盛られていた。