迷宮の魂

 エリーは想像していたよりも広くて綺麗な店だった。内装だけを見ると、新宿や六本木辺りのキャバクラと大差ない。置いてあるボトルの種類も、八丈島という僻地とは思えない位高級な酒があった。

 開店時間は6時だが、ママは7時から8時の間に何時も出勤して来るようだ。

 麗奈という28になる子がチーママのようで、ママが出勤して来る迄の間、店を切り盛りしている。

 客の入りも結構良くて、ママが来る頃にはほぼ満席になっている。入れ替わり立ち代り客が出入りし、それが閉店時間迄続く。

 女の子が十人でもこれじゃ足りない位だと美幸は思った。

 初日のバイトが終わった時には、さすがにぐったりとしてしまい、風呂にも入らず寝てしまった。

 この7月で22歳になる美幸は、去年の夏迄、都内のデパートに勤めていた。

 退社した理由は男関係だった。

 入社してから間もなく、妻子ある男と付き合い始めた。

 相手は、デパートにテナントを出している出入りの業者。

 配属された婦人雑貨の売り場に、その男は何時も顔を出していた。彼の会社は、アクセサリーを扱う会社で、やり手の営業マンという印象と、甘いマスク、それと物腰の柔らかさを感じさせた。社員も含め、売り場の女性達皆が媚を売るかのように熱い眼差しを送っていた。

 確かに、デパートの男性社員達に比べて、何事にも積極的な行動力は魅力的であったし、誰彼と分け隔てなく接する態度とその笑顔は美幸を虜にしてしまうのにわけはなかった。

 その彼に妻子が居る事は、最初から判っていたが、たまたま売り場の飲み会で意気投合し、軽い遊びのつもりで付き合うようになった。

 それがずるずると3年も続いた。

 職場の憧れになっていた男を自分が独占出来たという優越感もあってか、美幸は不倫をしているという後ろめたさを余り感じていなかった。

 その彼が、美幸以外にも女を作っていた。

 奥さんは許せるとしても、他に女を作っている事がどうしても許せなかった。自分勝手な言い分だとは、思っていない。美幸個人の倫理観では、そういう感情になるだけの話だ。


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