迷宮の魂
不倫で男関係に慎重になったかというと、そんな事もなく、転職した夜の仕事先でも似たような失敗を繰り返していた。逆に、男達からちやほやされる世界に入ってしまったが為に、余計、自分を見失ってしまった感がある。
店に来る客達とすぐに関係を持ってしまい、それが元でトラブルを繰り返す。結局、気付いた時には、身も心もボロボロになっていた。
気分転換も兼ねて、誰にも知られない場所でのんびりしようと思い、八丈島へやって来た。応募の電話の時に、ママが何も聞かず直ぐにいらっしゃいと言ってくれた事も、この島に来ようと決心した理由の一つである。それに、働くというよりも遊びという感覚に近かった事もある。
リゾート地で遊びながらお金が貰える。接客業といっても、都会と違って離島のカラオケパブ程度ならば、そう気を遣う事も無いだろうと思ったのだ。が、のんびり気楽にやれると思っていた目論見は、初日そうそうで崩れた。
美幸が目を覚ました時には、陽がたっぷりと部屋に入って来ていた。
客から勧められるだけ飲まされたアルコールがまだ残っていて、頭がずきんずきんする。
二日酔いの身体を何とか動かし、風呂場に行った。湯船にお湯を張ろうと蛇口を捻った。
暫く待ったが、お湯にならない。
「さいあく……」
ガスが点かないのだろうか。
元栓を調べてみたが空いている。原因が判らない。
美幸は遥の部屋をノックした。何度も叩いたが、返事は無い。諦めて自分の部屋に戻ろうとした時、隣に建つもう一棟のアパートの陰から出て来る男の姿を見つけた。
昨日、港で出迎えてくれた男だ。
「すいません」
美幸が声を掛けると、彼は立ち止まり何事かと見上げて来た。
「あのぉ、お風呂、お湯が出ないんです。見てくれません?」
彼は無言のまま美幸の部屋に入った。何ヶ所か確認した後、外廊下に出、壁にあった小さな扉を開けてバルブをいじった。