マビキ
絶望
走り出しそうとした次の瞬間、目の前に男が飛び出してきた。

「!…」

スーツを着た男は俺に向かって手を伸ばしてきた。

避けようとしたが、相手の動きは予想より速かった。

襟首を捕まれ、そのまま地面に叩き付けられた。
「何すんだ、放せ!」

男は無言のまま俺を押さえつけ、両手を掴み手錠を付けた。
やがて抵抗をやめると立たされ黒い車に押し込まれた。

車はどこかに向かって走り始めた。
恐怖が押し寄せ始めた。

30分位経っただろうか。
目的地に着いたらしい。
そこは大きな建物だった。
無機的で、デザインなどどうでも良いとでも言いたげな外観だ。


もっともだ。

ここは収容所。

俺はここで殺されるんだ。

車から下ろされ、乱暴な手つきで連行された。

施設内も外観と違わず無機質だった。

エレベーターに乗せられ、地下へ進む。

そこにあったのは、映画やドラマで見る刑務所によく似た光景だった。

鉄格子が張り巡らせられた牢屋に人が沢山いる。一人一部屋じゃないのは牢屋が足りないからだろうか。

中にいる人は老若男女様々で、犯罪者の類には見えなかった。
「この人達はいったい…。」
俺が呟くと、黒ずくめの男が口を開いた。
「こいつらは処分されるんだ。お前と同じ劣等組だ。さあ早く入れ。」

俺は牢屋に放り込まれた。

そして男達は黙ってその場を後にした。
俺は鉄格子を掴み力一杯開けようとした。
すると後ろから

「無駄な事をするな、開くわけない」。
と声がした。

振り向いて誰が発した言葉かすぐ分かった。

1人の男が睨むようにこちらを見ていた。
< 13 / 15 >

この作品をシェア

pagetop