雪がとけたら



『約束』



…あいつはそう言った。


多分それが、僕等の精一杯だった。


僕は結局、あいつに好きだなんて言えなくて、
肝心なことは何一つ伝わってないかもしれないけど、

それでもあいつは信じてくれた。

あいつから『約束』というチャンスを差し出してくれた。




…僕は少し腰を屈めて、あいつの落とした弁当を拾った。

「三色そぼろかよ」

あいつのチョイスにふっと笑いがこぼれる。

でもそれは一瞬で、目の前のそぼろがぼやけるのがわかった。


「ほんとあいつ…最後まで…」


視界が歪む。

弁当にポタポタと滴が落ちる。

…人目も気にせず、僕はその場で泣き崩れた。


抱き締めた弁当が潰れる。

それでも僕は、あいつの残り香を少しでも感じていたかった。




…ドアの向こう側で、あいつは最後に携帯を取り出した。

何を伝えたかったか、僕にはすぐにわかった。


携帯のストラップ。

微かに見えた『ゆきちゃん』の文字。



僕はそっとポッケに手を伸ばす。

袋に入ったままのそれ。


少しだけ京都の香りを残したストラップを、弁当と一緒に抱き締めた。







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