雪がとけたら
一瞬教室の目線が僕に注がれたが、新しい顔が入ってくることは今日に限り目新しいものではないので、自然と視線はばらけた。
僕は黒板に張り付けてあった座席表を確認し、真ん中より窓側の僕の席へ向かう。
「おっ、雪ちゃんじゃん!」
僕の前の席、徳永一久が明るい声を上げた。僕は軽くため息をついて椅子を引く。
「その呼び方やめろって」
「なになに~、朝先行ったの怒ってんの?」
「なわけないだろ。同室の奴と朝まで一緒に通学するかよ」
「だぁよね~!どうせ雪、西君と行くと思ったし」
何が可笑しいのか、ケラケラ笑いながら僕の方に体を向けた。
一久は寮で同室の奴だった。
「つかまさか一久と同じクラスなんてな」
「うんざりって顔すんなよぉ」
「一日中こんなうるさい奴と…」
「いいじゃんいいじゃんっ!明るく楽し…」
…一久の言葉を、カシャンという音が遮った。
一瞬教室が静まる。
丁度僕の隣の床に、筆箱の中身が散乱していた。
隣の子が落としたのだろう、僕は軽く身を屈めてそれを拾いだした。
一久もそれに倣いペンを集める。
カシャカシャという音と共に、教室にもざわめきが戻りつつあった。