雪がとけたら
……………
「もうっ!中川君はいっつも傷を作ってくるんだから」
口元の傷に消毒液をつけられて、そこがヒリッと傷んだ。
ペリッと絆創膏の剥がれる音がして、傷に綺麗に覆い被さる。
「いつも言うけど、先に手を出しちゃダメよ?まずはきちんと話し合いなさい」
トンッと傷を叩いて、保健室の先生は救急箱の蓋を閉めた。
ポリッと頭をかいて、立ち上がる。
「お風呂から上がったら、ちゃんと消毒しなさいね」
そんな声を背中に浴びながら、僕は保健室のドアを閉めた。
…軽く肩を落として、夕日で満ちた廊下の先を見る。
やっぱりそこには、あいつの姿があった。
廊下の壁にもたれかかって、僕を見つめている。
僕は視線を落としたまま、あいつの前まで歩いた。
前を通りすぎる瞬間、あいつの手が僕の腕を掴んだ。
僕はドキッとして、あいつを見上げる。
心配そうに、僕を見つめるあいつがいた。
「…雪ちゃん」
いつもの声で、僕を呼ぶ。
「あたし、雪ちゃんが好きよ」
あいつの声は、誰もいない廊下に響いた。