雪がとけたら
……………
「え、悟子って戸田さん!?」
さすがに驚いたのか、西は吸っていた煙草を危うく落とす所だった。
ギリギリの所で僕は西愛用のアメリカンチックな灰皿を差し出す。
一応冷静さを取り戻し、「あぁ…」と呟いて灰皿に煙草を押し付けたが、驚きは隠せずに言葉を続けた。
「え…戸田さんだよな?」
「ああ…」
「間違いなく?」
「間違うわけねぇだろ。後から名簿も確認した」
西のベッドにすがったまま答える僕を見つめ、西は再び煙草に手を伸ばした。
当然寮は禁煙で、僕はいつかばれるんじゃないかと気が気じゃない。
でも西の禁煙は、今のところ天地がひっくり返ってもありえないだろう。
そんなことを考えていたが、ふぅっと煙を吐いた西は僕の思考を元に戻した。
「で?何か話した?」
「…や…話すっていうか…」
僕は口ごもる。
「…話せる雰囲気じゃなかった」
顔の横で煙草を掲げたまま僕を見つめる西。
やがて口元に煙草を戻し、煙を吐くと同時に言った。
「…連絡しなくなって…どれくらいたつんだっけ?」
「…一年半」
煙の中、僕の声が虚しく響いた。