雪がとけたら



……………


本格的な授業はまだないものの、書類提出やオリエンテーションのために僕達は連日学校に駆り出されていた。

授業がないのは嬉しいが、これはこれで面倒臭い。


「雪!はよ~!」

元々人になつかれやすい僕は、クラスの奴等からもう『雪』と呼ばれていた。

僕も軽く返事を返し、席に向かう。



…隣の席には、窓の外を見つめたままのあいつがいた。


僕は荷物をドサッと置き、しばらく立ったままでいる。



「…はよ」



とりあえず、いつもの様に挨拶をする。

当然の様に返事はない。


入学してから数日、僕はこの朝の挨拶をあいつからことごとく無視されていた。


僕は肩でため息をつく。

椅子を引こうとした時に、あいつが立ち上がった。


後ろのドアから出ていこうとするあいつを思わず引き留める。


「おい、悟子…」
「気安く話しかけないで」


ピンとした冷たい声。

あいつのこんな声は初めて聞いた。


呆然とした僕を振り向きもせず、あいつは足早に教室を出ていった。


その背中を見ながらもう一度ため息をつく。




…痛む胸の針を、ため息と共に取り去ってしまいたかった。




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