雪がとけたら
「うは~、感じわりぃなぁ」
はっとして振り向くと、いつからいたのか前の席には一久が座っていた。
僕は見られていた気まずさから、少し俯いて髪をくしゃっとする。
「何々、早速修羅場?」
「ちげぇよ」
ひひっと冷やかす一久の後ろの席に、僕もガタンと腰かける。
「やっぱ知り合いだったんだ」
「…昔のな」
「幼なじみとか?」
「そんなんじゃねぇけど…」
そこまで言って、思わず笑いが出そうになった。
この期に及んで、僕はまだあいつを『幼なじみ』という枠に当てはめたくないらしい。
そんな僕の笑いを押さえてくれたのは、一久の「うわっ」という声と、彼の背中に突如現れた小柄な女の子だった。
「久~っ!聞いて聞いてっ!」
朝からこんな高いテンションでいられる奴、一久以外にはこいつしかいないだろう。
「…ナァ…もう少し普通に登場してくれよ」
背中に覆い被さる『ナァ』に向かって呟く一久。
一見呼び掛けの『ナァ』だと思われがちだが、『ナァ』というのは彼女、安藤奈々のあだ名だ。
「だって、ナァ今凄い運命感じたんだもんっ!」
相変わらず脈絡のない話を始めるナァに、僕はふぅっとため息をついた。