雪がとけたら


…ふいに彼女の瞳が揺れた。


驚く僕に向かって、佐久間さんは頭を下げる。


「え、何…」
「お願いっ!」


スカートを握りしめた手のひらに、小さな滴が落ちた。



「悟子を…助けて…」





…『助けて』






僕は呆然としたまま彼女の震える肩を見つめていた。


何がなんだかわからないけど、ひとつだけはっきりした。


あいつは今、誰かが助けてやらなきゃいけないんだ。


理由は何もわからないけど、それだけは佐久間さんの一言でわかった。





「外にいるから」と呟いて、西が部屋から出ていく。

ガチャッというドアの閉まる音を合図に、佐久間さんは顔を上げた。

手の甲で涙を拭い、小さく深呼吸する。


「ごめんなさい…泣いちゃって」

少し笑って言ったが、すぐに真剣な表情に戻った。


「悟子…昔の悟子と違うでしょ?」

ずっと思っていたことを佐久間さんが呟く。

僕が「あぁ…」と言うと、彼女は続けた。


「悟子が変わったのは…中2の時だった。」

言葉を選ぶ様にして、佐久間さんは話し始めた。


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