雪がとけたら



「…雪君が、いたから。あの子の中にはいつも、あなたがいた」



真剣な佐久間さんの瞳に、嘘なんて微塵もなかった。

風が出てきたのか、窓がカタンと音をたてる。


「突然だったの。本当に突然すぎて…驚く暇もなかった。悟子が…『先輩と付き合うことにした』って…」

…不謹慎ながら、脳裏に原田が浮かんだ。

「理由を聞いてもね、何も言わなくて…でも明らかに、普段の悟子と違くて…。全てを知ったのは、あの子が…妊娠したって、気付いた時だったの」


…ぐっと拳を握る。胃が奇妙に熱くなる。


全てを受け止められる自信がなかった。


そんな僕を気にしながらも、彼女は言った。

「検査で陽性が出た時…あの子、笑ってた。『なんで?』って言いながら、笑ってたの。『あたしは無理だって言ったじゃん』…って」

彼女の一言に僕は顔を上げる。

「悟子、病院でね、子どもができにくい体だって言われてたの」


…次々と明かされる真実に、僕はただ呆然としていることしかできないでいた。



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