雪がとけたら
「もちろん産むなんてできなくて…下ろすしかなかった。悟子、言ってた。『二重の罪を犯した』って…」
…二重の罪…。
「病院でね、ベッドの上で…悟子、虚ろな目で呟くの。『約束、守れないと思ったから』って。『雪ちゃんの側には、もういられないと思ったから』…って。多分それが…先輩と付き合った理由だと思う」
「約束が何なのかはわからないけど…」と小さく呟き、彼女は続けた。
「幸い…先輩もその時はもう高校生だったし、夏休み前だってこともあって、学校で噂になるなんてこともなかった。知ってるのはあたしだけだったし…。でも悟子は…人が変わった様に笑わなくなった。幸せを…全部、自分から遠退ける様に…そういう風に、なった。家族からも逃げる様に、寮のあるこの高校に来た」
少し置いて、彼女は口を開いた。
「あの子は今…自分で自分の幸せを奪ってるの。そんなあの子を救えるのは…多分、雪君しかいない」
佐久間さんの強い瞳が、僕を飲み込むように見つめた。
祈りにも似た、表情だった。
「お願い…悟子を解放してあげて。苦しみから、救ってあげて。」