雪がとけたら
「…まぁどうでもいいけど」と呟き、あいつは黙った。
再び沈黙が訪れる。
黙ったまま、僕は視線だけあいつにずらした。
すらっと細い足を組んだまま、冷たい視線を落とすあいつ。
三年前のあいつが脳裏に浮かんだ。
長い腕をすらっと伸ばし、笑顔で『雪ちゃん』と呼ぶあいつ。
あの笑顔を奪ったのは、誰でもない。
「…ごめん、悟子」
ふいにあいつが顔を上げた。
二人の目があう。
「俺…何もわかってなかった」
驚いた表情を見せるあいつ。
…あいつの笑顔を奪ったのは、僕だ。
「お前が辛い時…俺、何にも知っててやれなかった。何にも知らずに、連絡途切れてから勝手にいじけて…」
「どうでもいいよ、今更そんなこと…」
「お前は側にいてくれたのに」
呆れたように呟いていたあいつは、ふっと顔を上げた。
「両親が死んだとき…俺が一番辛かった時、お前は側にいてくれた。一緒に…苦しんでくれたのに」
あの頃のあいつ。
僕より高い背で、泣きながら僕を抱き締めてくれた。