雪がとけたら


「…まぁどうでもいいけど」と呟き、あいつは黙った。

再び沈黙が訪れる。

黙ったまま、僕は視線だけあいつにずらした。


すらっと細い足を組んだまま、冷たい視線を落とすあいつ。

三年前のあいつが脳裏に浮かんだ。

長い腕をすらっと伸ばし、笑顔で『雪ちゃん』と呼ぶあいつ。
あの笑顔を奪ったのは、誰でもない。




「…ごめん、悟子」





ふいにあいつが顔を上げた。

二人の目があう。




「俺…何もわかってなかった」

驚いた表情を見せるあいつ。






…あいつの笑顔を奪ったのは、僕だ。







「お前が辛い時…俺、何にも知っててやれなかった。何にも知らずに、連絡途切れてから勝手にいじけて…」
「どうでもいいよ、今更そんなこと…」
「お前は側にいてくれたのに」


呆れたように呟いていたあいつは、ふっと顔を上げた。

「両親が死んだとき…俺が一番辛かった時、お前は側にいてくれた。一緒に…苦しんでくれたのに」




あの頃のあいつ。

僕より高い背で、泣きながら僕を抱き締めてくれた。



< 145 / 300 >

この作品をシェア

pagetop