雪がとけたら
佐久間さんの話に出てきたあいつの言葉。
ふいにそれが、脳裏を過った。
『約束、守れないと思ったから』
『雪ちゃんの側には、もういられないと思ったから』
「…聞いたでしょ?あたし…子ども、産めないの。元々厳しい体だったのに…更にあたし、神様を裏切る様な真似、したから…」
あいつの手のひらに、くっと血管が浮かぶ。
「約束したのに…。雪ちゃんと、幸せな家族作るって。雪ちゃんが…一番望んでること、あたし…叶えてあげられないから…」
…古い記憶がよぎった。
『雪ちゃん、雪ちゃんの夢は何?』
『父さんがいて、母さんがいて、俺がいて…。そんな家族があったらいいや。』
『雪ちゃんがいて、あたしがいて、雪ちゃんとあたしの子どもがいて。それでいい。ううん、それがいい。』
『約束な』
…あいつは多分、僕が両親を亡くしていることに、僕よりずっと敏感になっていた。
あんな幼い約束も、あいつにとっては僕のための大切な約束だったんだ。