雪がとけたら
……………
「久、こっちこっち!あれ取って~!」
ざわつく人混み。
響く祭囃子。
射的の前で、ナァが大袈裟に手を振っている。
「しょうがねぇなぁ」と呟きながらも、一久は十分やる気だ。
「一久、ナァちゃんと付き合えばいいのにな」
キャッキャとはしゃぐ女の子達と一久を見ながら、僕と西は少し離れた石段に腰掛けていた。
特に旨いわけじゃないのに、祭りの焼きそばはどうしても魅力的に見えてしまう。
ずずっと焼きそばを頬張りながら、西の呟きに応える。
「ダメだよ、あいつら二人、お互いを異性だと思ってねぇもん」
「そうなの?お似合いなのにな」
「俺もそう思うけどな」
西に焼きそばを渡し、唇についた青のりを払う。
「だいたいナァは、西に夢中じゃん」
一口二口焼きそばを食べた西は、曖昧な微笑みを浮かべる。
やっぱりナァを恋愛対象として見る気はないようだ。
「まぁ、お前と戸田さんがうまくいってよかったよ」
明らかに無理矢理話をそらしたが、内容が内容だけに無視はできなかった。
「二人で京都に逃避行した時は、さすがに焦ったけどな」
焼きそばを石段に置いて、くくっと笑う西。