雪がとけたら
僕はぽりっと頬をかいたが、ばつが悪いのもあり目をそらして呟く。
「…心配かけて悪かったな」
そんな僕を横目で見ながら、西はふっと微笑んだ。
…西には随分心配かけた。
心配だけじゃなく、迷惑もかけた。
無断で京都に外泊した日も、春子さんをうまく言いくるめてくれたのも西だった。
それだけじゃない。
僕は何かしら西に頼り、西もまた嫌そうな顔ひとつせず僕の悩みに付き合ってくれた。
口に出しては言えないけれど、本心では感謝してもしきれない。
そんな西だから、僕はすっかり頼りきっていた。
…頼りきっていて、西も僕と同じ普通の16歳だってことを忘れていたのだ。
…「雪ちゃん!見てみてっ」
あいつが遠くで笑顔を向ける。
手には一久が取ってくれたのであろう、小さなひよこのぬいぐるみを持っていた。
ふっと笑い、僕は立ち上がった。
数歩歩いて、後ろの西に声をかける。
「西、行こ…」
…その表情を、僕はどう言えばいいのだろう。
いつも笑顔の西の表情は、ある一点を見つめたまま固まっていた。