雪がとけたら
驚いていた。
確かに驚いていたのだが、その表情はそれだけではなかった。
…西の表情の中には、驚きの中に確かに後悔が浮かんでいた。
僕はゆっくりと西の視線を辿る。
その先には、神社の木にもたれかかるある女性がいた。
すらっとした姿に深紅の浴衣がよく映える。
黒色でワンレンの髪には浴衣と同じ色の椿が咲いていて、それは西の方を向いていた。
すっと高い鼻筋が綺麗な横顔で、その瞳は憂いを帯びて祭り囃子の中をぼんやりと見つめたままだった。
その出で立ちはざわついた祭りの雰囲気とは少し違っていて、そこだけ哀愁を帯びた様な雰囲気を漂わせている。
…西は、彼女を見つめたまま一歩も動けずにいた。
逡巡しながらも僕は声をかける。
「…西?」
その声ではっとした様に表情を溶かした西は、明らかに動揺したまま呟いた。
「…悪い、先帰る」
「え…おい西っ!」
僕はさっきよりも大きな声で西の背中に声をかけた。
状況に気付いたのか、ナァ達も僕の方を向く。
西は振り向くことなく、僕達の前から姿を消した。