雪がとけたら
呆気に取られていたが、僕ははっとして彼女の方を見た。
彼女もまた驚いた表情でこっちを向いていたが、僕が振り向いたのと同時に背を向けた。
…その表情は、どこか西に似ていた様に思う。
状況が理解できないまま、僕はあいつに視線をずらした。
あいつもまた状況についていけないのか、僕に問いかける様な顔をしている。
「どうしたんだよ?」
一久の声で、ようやく耳に祭り囃子が戻ってきた気がした。
…寮に戻り、僕は西の部屋に行った。
ノックをしても返事はないが、戸惑いながらもドアノブをひねる。
部屋の中に、廊下の光が差し込んだ。
…暗い部屋のベッドには、浴衣のままの西が横になっていた。
「…西」
僕は呟いて電気をつける。
背中でパタンとドアの閉まる音がした。
動かない西の背中を見ながら、いつもの場所に座る。
…何を言えばいいのかわからずに暫く黙ったままいた僕に、背を向けたままの西が呟いた。
「…あの人」
「え?」
僕ははっと顔を上げる。
「あの人、俺に気付いてた?」