雪がとけたら

西の言う『あの人』が、あの深紅の浴衣の彼女だとわかるのにそう時間はかからなかった。

「わかんねぇけど…多分、気付いてたと思う」

西は「そう」と呟いて、ゆっくりと起き上がった。

長い足をベッドから出し、壁にもたれかかる様に座る。


「…あの人…西の知り合い?」

心のなかで「当たり前じゃんか」と呟く。

西は暫く黙っていたが、俯いたまま言った。


「…前さ、話したじゃん」


僕は西の方を向く。


「ナァちゃんの話してた時…『好きになれない』って」

その日の光景が脳裏に浮かび、「ああ」と呟く。



「俺さ、朱音しか好きになれないんだ」



…聞き逃してしまいそうなくらい自然と呟いた西。


僕は始めその違和感に気付かなかった。


西が煙草と灰皿に手を伸ばした瞬間、あの日の会話が脳裏に浮かぶ。





『西煙草吸うんだ』

『あぁ…朱音の影響』

『アカネ?』

『姉貴だよ』






…僕の表情を見て、西は軽く微笑んだ。



その微笑みは、たまに見せる寂しそうなものだった。










「…中川、覚えてたんだな。俺の姉貴の名前」








< 160 / 300 >

この作品をシェア

pagetop