雪がとけたら
西の言う『あの人』が、あの深紅の浴衣の彼女だとわかるのにそう時間はかからなかった。
「わかんねぇけど…多分、気付いてたと思う」
西は「そう」と呟いて、ゆっくりと起き上がった。
長い足をベッドから出し、壁にもたれかかる様に座る。
「…あの人…西の知り合い?」
心のなかで「当たり前じゃんか」と呟く。
西は暫く黙っていたが、俯いたまま言った。
「…前さ、話したじゃん」
僕は西の方を向く。
「ナァちゃんの話してた時…『好きになれない』って」
その日の光景が脳裏に浮かび、「ああ」と呟く。
「俺さ、朱音しか好きになれないんだ」
…聞き逃してしまいそうなくらい自然と呟いた西。
僕は始めその違和感に気付かなかった。
西が煙草と灰皿に手を伸ばした瞬間、あの日の会話が脳裏に浮かぶ。
『西煙草吸うんだ』
『あぁ…朱音の影響』
『アカネ?』
『姉貴だよ』
…僕の表情を見て、西は軽く微笑んだ。
その微笑みは、たまに見せる寂しそうなものだった。
「…中川、覚えてたんだな。俺の姉貴の名前」