雪がとけたら
…『姉貴』
ゆっくりと西の言う意味が脳に浸透する。
乾いた喉の奥から、戸惑った声を出した。
「…え…それって…」
「近親相姦」
ふうっと西が煙草の煙をはいた。
ゆらゆらと部屋に浮かぶそれを見つめながら、西の言葉がとんでもない意味を持つことに気付く。
あまりにあっさりとその非現実的な言葉を口にする西に、僕は戸惑いを隠せずにいた。
西もそんな僕に気付き、トンッと煙草の灰を落として呟く。
「驚いた?」
「いや…」と呟くが、驚きは表情から見てとれただろう。
再び煙をはき、西は続ける。
「朱音を姉だと思ったことなんて一度もなかった。俺にとってはずっと『女』だった。映画やドラマみたいにさ、もしかしたら血のつながりなんてないんじゃないかって…そんな淡い期待を抱いたことだってあった。親父、しょっちゅう浮気してるし」
はっと自傷的に笑う。
「…でも俺達は、正真正銘の兄弟だった。映画みたいに、どっちかが養子だとか…そんな夢みたいに幸せなこと、現実にはあり得なかった」
「当たり前なんだけどさ」と呟くと、西は煙草を押し潰した。
頭の中で、西の言葉が回る。