雪がとけたら
「ナァ…」
僕は思わず呟く。
ナァは色を失った顔で無理やり笑い、言った。
「あ…ごめんね、立ち聞きするつもりじゃなかったんだけど…なんか、話題が話題だけに入り辛くて…」
無理矢理な笑顔は次第に崩れ、眉間にしわがよる。
口元を押さえて駆け出したナァを、一久が追いかけた。
同じ様に驚いているあいつと佐久間さんに、「驚かせてごめんね」と呟き、西は部屋から出ていった。
…残された僕達は、あまりにもショックな事実に、ただ呆然とするだけだった。
…「雪ちゃん」
振り向くとあいつがいた。
夏の終わりの夜はまだ蒸し暑く、月の光がほんのりとあいつの肌の汗に反射する。
僕は少し横にずれ、あいつはそこにそっと腰かける。
二人の目の前では、中庭がぼんやりと月に照らされていた。
どこかで虫の鳴く声を聞きながら、僕は口を開いた。
「…昔さ」
あいつが僕の方を向いたのがわかる。
「昔、西が言ったんだ。『お前は恵まれてる』って。『好きになっていい相手がいて、お互い同じ気持ちだなんてそうそうない』ってさ」