雪がとけたら
「悟子とのこと相談した時なんだけど」と呟くと、あいつが軽く微笑んだ。
「…西、どんな気持ちで言ったんだろうな。」
僕の呟きは、夜の闇に溶けていった。
…僕があいつとのことでぐだぐだ悩んでいた時、西はどんな思いを抱えていたのだろう。
許されない恋に溺れながら、どれだけ辛い思いをしてきたのだろう。
僕は何一つ、気付いてやれなかった。
…西はあんなにも、僕を助けてくれたのに。
「…覚えてる?あの台風の日」
ふいにあいつが口を開いた。
「あたしがここにいて、雪ちゃんと偶然会った日」
中庭を見ながら呟く。
あの日の光景は、僕の心にはっきりと焼き付いていた。
「うん…覚えてる」
「あの日ね…あたしにとって、忘れられない日だったの」
虫の鳴く声が止まった。
「…赤ちゃん、おろした日だったんだ」
…ドクンと、心臓が跳ねるのがわかった。
あいつはゆっくりと続ける。
「あの日のちょうど一年前、あたしは病院にいた。絶望と罪の意識の中で、ぼんやりと窓の外を見てたの。緑の木々がたくさんあって…看護師さんが、桜並木道だって教えてくれた」