雪がとけたら
……………
僕は、あいつの手を引っ張りながら全力で走った。
しゃくりあげながら、あいつも全力で走る。
背中でランドセルが、めちゃくちゃにガチャガチャと鳴る。
頭の中には、公園で走り回るチロだけがいた。
…リビングの真ん中には、バスタオルの上に横たわるチロがいた。
いつの間にか、僕等より小さくなったチロ。
その日は一段と小さく見えた。
「チロ…っ」
あいつは涙でぐちゃぐちゃになった顔をチロに寄せた。
僕もそれに倣い近付く。
閉じた目をゆっくりと開けて、力なくしっぽをパタッとふった。
僕はそっと、チロの頭を撫でる。
チロは嬉しそうに、目を細めた。
涙で濡れたあいつの頬を、ゆっくりと出した舌で舐めた。
もう、おやつの香りはしなかった。
「チロ…チロ…っ」
あいつは泣きながら、手を差し出す。
チロはそっと、その指を舐めた。
そしてしっぽが、ゆっくりと降りた。
パタンという音が、チロの最期の音だった。