雪がとけたら



「チロぉっ!!」


小さくなったチロに覆い被さり、あいつは泣いた。

こんな大声で泣き叫ぶあいつを、僕は初めて見た。

僕は下唇を噛み締めて、耐えた。

…でも、涙は抑えられなかった。


止めどなく流れる僕等の涙が、冷たくなったチロを濡らした。




…チロは人の気持ちがわかる犬だった。


きっと自分が死んだら、僕等が悲しむこともわかっていたと思う。


だから最後の最後まで、力なくしっぽをふってくれていた。


幸せだったと、伝えてくれていた。








…「チロは、精一杯生きたよ」


公園で泣き続けるあいつに、僕は呟いた。

「おじいちゃんだったんだ。もう、疲れたんだよ。」
「わかってる…っ」
「チロは、『寿命を全う』したんだよ」


僕は、最近国語の教科書で知った言葉を使った。

完全に意味がわかっていたわけではない。

でも、こういう時に使う言葉なのだということはわかっていた。


あいつは頷いて、僕の肩で泣いた。

僕より背の高いあいつは、肩に頭を乗せる形になった。

僕はそんなあいつの頭を撫でた。

さっきチロを撫でた手で、撫でた。



< 18 / 300 >

この作品をシェア

pagetop