雪がとけたら
「チロぉっ!!」
小さくなったチロに覆い被さり、あいつは泣いた。
こんな大声で泣き叫ぶあいつを、僕は初めて見た。
僕は下唇を噛み締めて、耐えた。
…でも、涙は抑えられなかった。
止めどなく流れる僕等の涙が、冷たくなったチロを濡らした。
…チロは人の気持ちがわかる犬だった。
きっと自分が死んだら、僕等が悲しむこともわかっていたと思う。
だから最後の最後まで、力なくしっぽをふってくれていた。
幸せだったと、伝えてくれていた。
…「チロは、精一杯生きたよ」
公園で泣き続けるあいつに、僕は呟いた。
「おじいちゃんだったんだ。もう、疲れたんだよ。」
「わかってる…っ」
「チロは、『寿命を全う』したんだよ」
僕は、最近国語の教科書で知った言葉を使った。
完全に意味がわかっていたわけではない。
でも、こういう時に使う言葉なのだということはわかっていた。
あいつは頷いて、僕の肩で泣いた。
僕より背の高いあいつは、肩に頭を乗せる形になった。
僕はそんなあいつの頭を撫でた。
さっきチロを撫でた手で、撫でた。