雪がとけたら
……………
朝日はまだ昇らないけれど、僕達は帰路についた。
寮に続く坂道を、ごみ袋とほんの少しの海の香りを抱えて登る。
少し前を歩くあいつの服をちょいっと引いて、僕の隣に引き寄せた。
少し目を丸くしたあいつはそれでも笑顔で隣を歩く。
「今日…凄く楽しかった」
「そうだな」
前の方で一久とナァがじゃれあっていた。
微かに西の笑い声が聞こえる。
「ん」
僕は何の前触れもなく、ポッケから手を出してそれを差し出した。
不思議そうな顔であいつは手を受け皿の形にする。
スルッと僕の手から落ちたそれは、シャラッと音を立ててあいつの手のひらに収まった。
シルバーのネックレス。
小さなシルバーリングのチャームが通してあった。
「本物の指輪は18歳の誕生日にやるよ」
まだ暗いからだろうか。
そんなセリフもスルッと出てくる。
あいつは器用な手先でそれをつけ、嬉しそうにチャームを撫でた。
「…ありがと」
…まだ暗い明け方。
髪から潮の香りが漂う。
前を歩くみんなに隠れて、僕等はそっとキスをした。
照れた様なあいつの笑顔を、僕はきっと忘れない。