雪がとけたら



……………


朝日はまだ昇らないけれど、僕達は帰路についた。

寮に続く坂道を、ごみ袋とほんの少しの海の香りを抱えて登る。

少し前を歩くあいつの服をちょいっと引いて、僕の隣に引き寄せた。

少し目を丸くしたあいつはそれでも笑顔で隣を歩く。


「今日…凄く楽しかった」
「そうだな」


前の方で一久とナァがじゃれあっていた。
微かに西の笑い声が聞こえる。


「ん」


僕は何の前触れもなく、ポッケから手を出してそれを差し出した。

不思議そうな顔であいつは手を受け皿の形にする。

スルッと僕の手から落ちたそれは、シャラッと音を立ててあいつの手のひらに収まった。


シルバーのネックレス。

小さなシルバーリングのチャームが通してあった。


「本物の指輪は18歳の誕生日にやるよ」


まだ暗いからだろうか。
そんなセリフもスルッと出てくる。


あいつは器用な手先でそれをつけ、嬉しそうにチャームを撫でた。


「…ありがと」









…まだ暗い明け方。

髪から潮の香りが漂う。

前を歩くみんなに隠れて、僕等はそっとキスをした。


照れた様なあいつの笑顔を、僕はきっと忘れない。









< 195 / 300 >

この作品をシェア

pagetop