雪がとけたら
やがてナァははっと思い付いた様な顔をして、「もしかして勘違いしてる?」と聞いてきた。
寮の廊下にパタパタという足音が響く。
「スカウトされたのはナァじゃなくて…」
「ナァちゃんっ!」
「さっちゃんだよっ!」
…ナァがそう言うと同時に、あいつも部屋に駆け込んできた。
後ろから佐久間さんも続く。
多分あいつはナァを止めに来たのだろうが、一足遅かったみたいだ。
「え…戸田さん?」
一久も西も、もちろん僕も目を丸くしてあいつを見ていた。
困った様な顔をして僕の方を見る。
「スカウトって…なんの?どこに?」
僕が聞くと、あいつは渋々一枚の名刺を取り出した。
みんなの視線がその小さな紙に一気に集まる。
「…モデルにならないかって…」
名刺には、芸能界とかテレビにそんなに詳しくない僕でも知っている様な事務所の名前が明記されていた。
「すげぇ…俺でもこの事務所の名前、知ってるよ」
「でしょ!?ナァも知ってた!」
「あれだよな、こないだの月9主演の女優もこの事務所だよな!」
一久とナァはすっかり盛り上がり、西もまんざらでもなさそうに「へぇ…」と名刺を見つめていた。