雪がとけたら


……………

その日僕は家に帰り、今日おばさんに聞いた話を母さんにした。

夕飯を作る母さんの背中に話しかけるのが、僕は好きだった。

母さんはトントンと規則正しい音をたてながら聞いていたけど、僕が話し終わるとふいにその音を止めて言った。


「…ねぇ雪。雪は、チロに会いたい?」


振り向かないまま呟く母さんに向かって、僕は不思議そうに言った。

「会いたいよ。当たり前じゃん。だから俺、精一杯生きるよ。チロに会える様に、一生懸命。」

僕の答えを聞いた母さんは、しばらくしてまた規則正しい音をたてはじめた。


「…そうね」


トントンという音の中で、母さんは小さく呟く。




「雪は、精一杯生きなきゃね。」









…聞き流したあの日の言葉。


幼い僕は、何も気付けなかった。


何も、わからなかった。





あの言葉が、どんな意味を持ってたかなんて。






……………


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