雪がとけたら
……………
「さーとこ」
突然呼ばれた自分の名前に驚き振り向くが、足音を忍ばせたつもりもないのであいつが何か考え事をしていたことがわかる。
「雪ちゃんか」と安心した様に肩を落とすあいつの横に、僕はいつもの様に腰を落とした。
中庭を見渡せる寮の裏口。
僕とあいつはしょっちゅう夜、ここで会っていた。
そう言えば色っぽく聞こえるが、キス以上の事はしていないことを一応断っておく。
キス以上は、ね。
「…考え事してた」
「そんなことないよ」
「わかるよ。なんかいつも以上にふわふわしてる、意識が。」
あいつは考え事をすると焦点が定まらない目をする。
小さな頃はそんなあいつを「ふわふわ」という言葉でよく形容していた。
「…スカウトのこと?」
あいつからは確信に触れないことはわかっていたから、敢えて僕から話題を提供した。
少し逡巡した様子をみせたが、やがて観念した様に話し出す。
「…うん。でも…ほんとにもう、断るつもりだから。」
そう言うものの、あいつは視線を上げない。
迷っている証拠だ。
「西が言うようにさ」
ぴくっとあいつの肩がゆれる。
「すぐに答え出すことねぇよ。」