雪がとけたら


「…うん」

一応肯定してみせるものの、「でも大丈夫、もう決めたから」と呟く。

それが自分に言い聞かせている様に聞こえるが、それには気付かないふりをして「そっか」と答えた。



…正直なところ、僕はあいつの答えに安心していた。

もしあいつが意欲的にこのスカウトに興味を示していたら、僕はさぞ慌てふためいただろう。

ただでさえ昔から目立っていたあいつ。
そのことで様々なやきもちや引け目を感じてきた。

今でこそそんな思いを感じることは少なくなったけど(ないとは言えない、情けないけど)、あいつが今以上有名になることに多少なりとも不安は覚える。


…あいつがそう言うなら、無理に勧めることもない。


それこそ僕が自分に言い聞かせていた言葉だった。

あいつの表情を曇らせる影を、意識しない様にするための言葉だった。



それぞれの思いを抱きながら、この話題を二人ともが終わらせたがっている。


そのために僕等は、無言のままキスをした。



…うまく重なり合わなかったキスを、僕は夜の闇のせいにした。






……………






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