雪がとけたら


「西に言えば貸してもらえるよ」

そう言おうとしたが、せっかくの放課後デートの誘いを無下に断ることもない。

「いいよ」

僕は鞄を手に立ち上がる。

「やった」と小さく微笑むあいつが可愛くて、西図書館を紹介しなくてよかったと心から思った。









…下駄箱を出ると思いの外秋風が冷たくなっている事に気付く。

あいつもそう感じたのか、「さむ」と細い両腕を抱えていた。


「そろそろマフラーの季節かなぁ」
「それより前に、雪ちゃんはブレザーを着るべきだよ」

薄い僕のセーターをつまむあいつに、「ブレザー苦手なんだよ」と苦笑しながら答える。

そのまま流れる様にその手をとり、「さみぃな」となるべく自然を装いながら歩き始めた。

あいつもその自然さを演じながら「そうだね」と微笑む。

この小さな幸せの瞬間が、最近一番好きな瞬間だ。





…少し歩くと、門の側にマフラーを巻いた二人の男性が見えた。

丁度マフラーの事を考えていたから、用意周到な彼らを羨ましく思う。

「いいな、マフラー」

あいつにも同意を求めようと話しかけたが、あいつは彼らを見て固まっていた。

瞬間、彼らが何者なのかを悟る。

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