雪がとけたら
僕は順々に二人とあいつの顔を見比べる。
向こうもあいつに気付き、社交的な笑顔を向けてきた。
あいつも固い表情のまま、軽く頭を下げる。
「ごめんね、こんな待ち伏せみたいな真似して」
…みたいなじゃなくて待ち伏せに他ならないじゃないか。
僕は妙な敵対心を抱き、あからさまに不機嫌な顔をする。
そんな僕は当然無視して、二人はあいつに近付いてきた。
「…考えなおしてくれないかな」
真剣な彼らの問いかけに、あいつは視線を下げる。
その一言で、彼らがあいつをスカウトした事務所の人だということが証明された。
「…お電話で何度も言いましたが、受けるつもりはありませんから」
すみませんと呟き、僕の手を引き歩き始めた。
さすがに睨みながらすれ違うことも躊躇われたので、社交辞令的なお辞儀だけをしてその場を後にしようとする。
「戸田さん」
そんな僕等の背中に呼び掛けられる声。
あいつの足が泊まるが、振り向くことはない。
間に挟まれた状態の僕はどうしようか迷ったが、とりあえずあいつに倣って振り向きはしなかった。
「僕は長年この業界に携わっているから、人を見る目に長けてるんだ」