雪がとけたら


「…本当に、いいの?」

僕は自分でもびっくりする事を言っていた。


「本当は悟子…やってみたいんじゃないの?」


…自分の首を絞めている気分だ。

でも、彼の言葉が僕が逃げていた事実を表していた。


『過去に囚われている』


…核心だと思う。


あいつが断り続ける理由はきっと、そこにある。


あいつ自身もきっとわかっているが、言葉にしないことでわからないふりをしてきたのだ。


でも、それじゃ駄目だ。


「俺…あの人の言う通りだと思う」

あいつははっと振り向いて言った。

「雪ちゃんまでそんなこと言うの?」
「だってそうだろ?」


真剣な表情。


「…お前、前に進めてないよ。進んじゃいけないって…そう思ってんじゃないの?」


あいつは黙った。
図星だと思った。


「…将来につながることだよ。ちゃんと…自分と向き合って、答え出すべきだと思う」



…深刻になった空気はどうしようもできなくて、「とりあえず今日は帰ろう」と言った。
あいつは何も言わずに、ただ眉間にしわを寄せたまま俯いていた。


…相変わらず寒い風を感じながら、僕はあいつの手を引いた。







……………





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