雪がとけたら



……………

なんの変哲もない夜だった。

いつもの様に一久はゴロゴロ転がっていて、僕は床にあぐらをかきぼんやり考え事をしている。
そんな僕を気にすることもなく「あープリン食いてぇ」などと呟いている一久。

これくらい鈍感な奴の方が、案外同室で楽なのかもしれない。


トドの様に転がっている一久をある意味感謝の気持ちをこめて眺めていると、ふいにノック音が部屋に響いた。

一久は「あーいてーるよ~」となんとも間抜けな返事をしたが、僕はそのノック音の主に予感があった。

キィッと躊躇う様な音をたてて開くドア。



「あの…」



隙間から覗いたのは、部屋着姿のあいつだった。

「えっ!と…戸田さん!?」

あきらかに動揺する一久。

当たり前だ。ナァはともかく、あいつが男子寮に来るなんて滅多にない。

一久は、ぼんやり眺めていたファッション雑誌を慌ててベッドの下に押し込み(普段どんな雑誌を見てるかがバレバレだ)、「ど…どうしたの?」とどもり調子で言った。


「えっと…雪ちゃんに話があって…」


居心地悪そうに呟くあいつに、「あ、雪ね!うん!」と一久は立ち上がる。

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