雪がとけたら
「えと、じゃ、俺西君とこ行ってくるわ!」
1人バタバタとしながら上着を羽織る。
一久は出ていく寸前に僕の耳元で、「エッチなことは禁止ですよ」と楽しそうに呟いた。
「ば…っ」
思わず一久の口を手で覆ったが、あいつには聞こえていなかったのか不思議そうな表情を見せていた。
モゴモゴしながら僕の手を払い、「ポテチもらうな~」と言い残して部屋から出ていった。
…嵐の後の静けさ。
一久が出て行った後は、その言葉がよく似合う。
一久自体が嵐そのものなので、嵐の「前の」静けさとは到底言えなかった。
「えと…」
先に口を開いたのはあいつだった。
入り口で立ち尽くしているあいつに気付き、「とりあえず座りなよ」と一久の座布団を引っ張る。
コクンと頷いて、おずおずとその上に座った。
ようやく目線が合う。
僕は反射的に視線をそらし、足の上で意味もなく握ったり開いたりしている手にそれを向けた。
再び沈黙が訪れるが、あいつが何のために来たのかはわかっている。
要は、どちらからその話題を切り出すかだった。
チコッチコッと、目覚まし時計の針が動く。
「…あたしね」
切り出したのはあいつだった。