雪がとけたら



「…ありがとう」


僕等は闇のなかで、小さく笑いあった。

その笑顔の裏には色んな感情が渦巻いていたけれど、でも僕はあいつの背中を押そうと本気で思えていた。


それは多分、あいつの一言があったからだけど。





『だって、雪ちゃんがいてくれるもん。』






何よりもそれが、僕の力の源になる。

…我ながら単純だと思うけど。





それから僕等は、そっとキスを交わした。

このキスは、僕等にとって区切りのキスでもあった。


過去との決別なんかじゃない。
過去を抱えながらも、一歩を踏み出すためのキス。

二人で、歩んでいくためのキスだった。

少し俯いて頬を染めるあいつを軽く抱き締めながら、これくらいなら許せよと一久に向かって呟いた。













…「あいつら、まさかヤってねぇよな」

一久はポテチを頬張り呟いた。
くくっと笑いながら西はページをめくる。


「でも戸田さんが来たってことは…決めたんだろうね」

西の声に一久も「だろうね」と答える。


「…大丈夫かな」


意味深な西の呟きが、広い部屋に響いた。






……………







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