雪がとけたら
「や…一ヶ月くらい会ってないかな」
そう言いながら、僕は雑誌に手を伸ばした。
ページを無造作に捲る。
開いたページには春物のジャケットをクールに着こなしているあいつがいた。
少し生意気そうに尖らせた口元と挑発するような鋭い目線。
片手で長い髪をかきあげて、反対の手でピンヒールのミュールを担ぐように持っている。
ミニスカートから伸びた綺麗な足の片方に体重を預けるような姿勢で立っていて、何もはいてないその足の先には綺麗な赤いペディキュアが塗られていた。
雑誌の中のあいつ。
それがあまりにも普段のあいつとかけはなれていて、僕は思わず顔を綻ばさせた。
「…余裕綽々だね」
そんな僕を見ながら西がふんっと笑った。
「そう?」
くくっと笑いながら、僕は雑誌を閉じる。
「まぁ…正直、俺もここまで余裕持てるとは思わなかったな。もっと焼きもちとか…色々もやもやした感情、出てくると思ってた」
僕とは違う世界にいるあいつ。
そんなあいつを冷静に見守る自信があると言えば、半分くらいは嘘になったと思う。
「でも、案外平気かな。普段のあいつと『Satoko』とは違うと思うし」