雪がとけたら

あいつは本名で活動はしていなかった。さすがにそこまでの勇気は出なかったのかもしれない。

でもあいつは、そのことによってオンとオフを上手く使い分けてる気がする。

僕もまたそのことにより、ブラウン管や写真を通して見るあいつと僕の側にいるあいつとをきちんと分けて考えることができている。


それでもどっちのあいつも、あいつそのものなんだけど。



「そういや、久々に会うって言ってたっけ。今週末」
「うん。あいつの休みが久々にとれたらしいから」

思い出した様に呟いた西に向かって答えた。

今週末、久しぶりに丸一日あいつのスケジュールがあいたのだ。


「お姫様をバッチリ休息させてやれよな」


ふうっと煙を吐き、西はニヤリと笑った。

僕も軽く笑い返し、もう一度雑誌に手を伸ばす。







…僕とは違う世界にいるあいつ。

そんなあいつを今、穏やかな気持ちで応援できている。

まだまだ弱いし不安定だけど、ほんの少しだけ前に進めた気がした。


二人の未来に向けての一歩。

過去を抱えた背中は重いけれど、それでも写真の中のあいつの笑顔は輝いていた。




それがとても、嬉しかった。









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