雪がとけたら


「…久しぶり」

僕の前に来たあいつは、少し視線を落として呟いた。


ダボッとしたニットに黒いトレンチコート。
ゆったりとした上半身とは対照的な、デニムのショートパンツにニーハイソックス。白いショートブーツが春の香りを感じさせた。


「…なぁに?」

じろじろ見つめる僕に向かっていぶかしげに呟くあいつ。

「いや…」

そう言いながらふっと吹き出した。

「なによー!」
「や、わりぃ…」

口元に手を当ててくすくす笑う僕の胸元をあいつはポコポコと叩く。

「だって…なんか雑誌で見るお前と違うし…」

ポンッと頭に手をのせて言った。

雑誌やCMでは、あいつの長身と目力を生かしたクールなキャラを演じることが多い。
でも普段のあいつは、クールとは程遠いキャラなのだ。

「もぉ~」

ぷうっとホッペを膨らませたあいつを見て益々ギャップを感じ、それと同時にそんなあいつがやっぱり可愛かった。


…恥ずかしくて、そんなこと口には出せないけど。


「いこっか」


僕はあいつの手を取った。
久しぶりのあいつの体温。


眉を八の字にしながらも、あいつは上目遣いに微笑んだ。






……………





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