雪がとけたら
……………
夕焼けが街を暖かく包んでいるのが見える。
覗き込む様に景色を見下ろしていた僕等も、しばらくしてお互いの方に向き直った。
「冬の夕暮れって綺麗だね」
あいつが微笑み呟く。
あまり大きな声じゃなかったが、観覧車の中では十分に耳に届いた。
「あれから見つからなかったな」
「だね。でもちょっとドキドキしてた」
昼間のレストランでの出来事を思いだし、再び笑いが込み上げてくる。
夕日が射し込むゴンドラの中で、二人揺れる様に笑いあった。
やがてゆっくりと静寂が訪れて、ゴンドラの中には夕日だけが自由気ままに存在していた。
「…なぁ」
僕は呟く。
あいつは視線で答える。
「チューとかする?」
伺うように言う僕に、あいつは少しだけ目を丸くして笑った。
「チューですか」
「そうですよ」
笑い続けるあいつを「笑うなよ」と小突く。
やがて笑い終えたあいつは、優しい笑顔で「いいですよ」と言った。
その一言を合図に、僕等は儀式の様にお互いを見つめる。
僕があいつの顔に近づくと、あいつはゆっくりと瞼を下ろした。
少しずつ、あいつの香りが近くなる。