雪がとけたら




……………

夕焼けが街を暖かく包んでいるのが見える。

覗き込む様に景色を見下ろしていた僕等も、しばらくしてお互いの方に向き直った。


「冬の夕暮れって綺麗だね」


あいつが微笑み呟く。
あまり大きな声じゃなかったが、観覧車の中では十分に耳に届いた。

「あれから見つからなかったな」
「だね。でもちょっとドキドキしてた」

昼間のレストランでの出来事を思いだし、再び笑いが込み上げてくる。

夕日が射し込むゴンドラの中で、二人揺れる様に笑いあった。


やがてゆっくりと静寂が訪れて、ゴンドラの中には夕日だけが自由気ままに存在していた。


「…なぁ」


僕は呟く。

あいつは視線で答える。



「チューとかする?」


伺うように言う僕に、あいつは少しだけ目を丸くして笑った。


「チューですか」
「そうですよ」


笑い続けるあいつを「笑うなよ」と小突く。

やがて笑い終えたあいつは、優しい笑顔で「いいですよ」と言った。



その一言を合図に、僕等は儀式の様にお互いを見つめる。

僕があいつの顔に近づくと、あいつはゆっくりと瞼を下ろした。



少しずつ、あいつの香りが近くなる。




< 226 / 300 >

この作品をシェア

pagetop