雪がとけたら


「…ちょ、まった」


僕の突然の一言にあいつは驚いて目をあけた。

「何?」
「いや…」

僕は少し体を動かす。

「なんか…体勢きつくない?」

この観覧車は何故かゴンドラが異様に大きい。前西と来たときは男二人だったので丁度よかったが、相手が女の子だと座席と座席の間が広いのだ。

キスをするには、少し遠い。

「あ…そっか。じゃああたしそっち行ってい?」
「あ、ちょ…」

『ゆっくり』と言おうとしたが、少し遅かった。

あいつは勢いよく立ち上がり僕の座席の方に来ようとした。

が、突然立ち上がり重さのバランスがとれなくなったゴンドラは、怒った様に大きく揺れる。

「きゃっ」
「おわっ、あぶねっ!」

僕はバランスを崩したあいつの手を取り、思わず立ち上がる。

そのことでますますゴンドラは揺れ、ちょっとした地震を体験している様な感覚に包まれた。









…ゆっくりと揺れがおさまる。

僕とあいつもそれに合わせる様に、目を開いた。


僕等は座席と座席の間の床にへばりついていた。

僕の足の間に、丁度あいつが収まっている。


「…びびった」

僕の一言にあいつが吹き出す。

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