雪がとけたら


「あは、あははっ!」
「お前…笑うなよな」
「だって…面白かったんだもん」
「俺はびびったっつの…」

はぁっと息をつき、それを見たあいつはますます笑った。

「笑うな~っ」
「きゃーっ」

僕はあいつの髪をくしゃくしゃっとし、あいつは可笑しそうに叫ぶ。

それで再び揺れがおこったが、丁度真上を通りすぎた辺りでゆっくりと落ち着いた。










…静かに夕日が射し込むゴンドラで、僕等はキスを交わした。

ゆっくりと、長いキス。

何度か唇を離し、角度を変えながらお互いを求めあう。

ギギッと観覧車が唸ったが、その時の僕等には多分聞こえていなかった。

あいつの手が僕のマフラーを握り、僕の手が火照ったあいつの頬と小さな細い肩に添えられる。



短い冬の夕暮れが、永遠に続くように思われた。











…やがてゆっくりと離れた時には、もう随分地上近くに降りてきていた。


「…前後にお客さん、乗ってなくてよかったね」

あいつが悪戯っぽく呟き、僕も苦笑しながら「そうだな」と答える。

おでこをコツンとぶつけ合い、僕等は小さく笑いあった。


気付けば太陽は、山裾に隠れていた。







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