雪がとけたら



……………


「君たちももう三年だ。春は何かと気が緩みやすい季節だが、推薦組も気を引き締めて新学期にのぞんで欲しい」


いつもはジャージの担任も、始業式だからか今日はきちんとスーツに身を包んでいた。

言われた側から大きな欠伸をする一久を見ると、引き締まるものも引き締まらない。

視線だけを中庭の桜に移す。

チラチラと風に揺れる花びらを見ながら、二年前のあいつを思い出した。


…今年の夏も、あいつはここで祈るのだろうか。


もしも祈ることができないのであれば、僕が代わりに祈ろうと思った。











…「雪、花見しようぜ」


気付いたらホームルームは終わっていて、目の前に一久と西が立っていた。


「ぼーっとしてんなよな~。先生も言ってただろ。『気を引き締めろ!』って」


偉そうに言う一久を見ながら、「いや、お前にだけは言われたくねぇよ」と言い立ち上がる。


「なんだよ~」と叫ぶ一久を背に、僕と西はくくっと笑いながら中庭へ向かった。









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