雪がとけたら
……………
夏休み、僕は時間の許す限りあいつの病院に足を運んだ。
西や佐久間さん達もよくお見舞いに来てくれて、その度にあいつに笑顔が戻ってくる。
でも、あいつの腕から点滴の針が抜けることはまだなかった。
「はい、お土産」
あいつのベッドのテーブルに、小さな箱を置いた。
甘い香りが病室を包む。
「ナァがこないだおすすめだって言ってた店のシュークリーム。食える?」
そんなに大きくないサイズのシュークリームを探し、あいつに差し出す。
あいつは少し逡巡したが、ゆっくりとそれを受け取り「ありがとう」と言った。
僕も一つ取り、「いただきます」と口に運んだ。
「…美味しい?」
「うまいよ。食ってみ?」
僕の一言で、あいつはゆっくりとその小さな口元にシュークリームを運んだ。
ほんの少しだけかじる。
「どう?」
「…美味しい」
あいつの一言にほっと胸を撫で下ろし、「ナァってなかなか鼻がきくよな」と言いながら残りのシュークリームを口に運んだ。