雪がとけたら



……………

夏休み、僕は時間の許す限りあいつの病院に足を運んだ。

西や佐久間さん達もよくお見舞いに来てくれて、その度にあいつに笑顔が戻ってくる。


でも、あいつの腕から点滴の針が抜けることはまだなかった。



「はい、お土産」

あいつのベッドのテーブルに、小さな箱を置いた。
甘い香りが病室を包む。

「ナァがこないだおすすめだって言ってた店のシュークリーム。食える?」

そんなに大きくないサイズのシュークリームを探し、あいつに差し出す。

あいつは少し逡巡したが、ゆっくりとそれを受け取り「ありがとう」と言った。

僕も一つ取り、「いただきます」と口に運んだ。

「…美味しい?」
「うまいよ。食ってみ?」

僕の一言で、あいつはゆっくりとその小さな口元にシュークリームを運んだ。

ほんの少しだけかじる。

「どう?」
「…美味しい」

あいつの一言にほっと胸を撫で下ろし、「ナァってなかなか鼻がきくよな」と言いながら残りのシュークリームを口に運んだ。

< 239 / 300 >

この作品をシェア

pagetop