雪がとけたら
「ぷは…っ!また父さんの勝ちだな!」
「ずりーよ!何で勝てないんだよー」
「ははっ、もう何年かしたら、雪に勝たせてやるよ」
笑いながら父さんは、僕の顔をタオルで拭いた。
…六年生になったら、絶対父さんに勝ってやる。
僕は密かに決意していた。
細くて背の高い父さんは、どっしりしていて腕の太いあいつのおじさんとは正反対だった。
でも僕は、父さんの描く絵が好きだった。
美人でおっとりしている母さんは、ハキハキしていて少女の様なあいつのおばさんとは正反対だった。
でも僕は、参観日に母さんが来るのが自慢だった。
…つまるところ、僕は父さんと母さんが大好きだった。
たまに友達が「親がうざい」とか言っていたけど、僕にはその気持ちが理解できなかった。
俗に言う『反抗期』というものが、僕の中には存在しなかった。
大好きな父さんと母さん。
誰から見ても幸せな家族だと、胸を張れる自信があった。
…だから今でも、あの日のことは信じられないんだ。