雪がとけたら


「…悟子の手、母さんを思い出す」


ふいに呟いた僕に、あいつは「本当?」と言う。


温かいぬくもり。

いつまでも消えない優しさ。




…少しの間だけ感傷に浸っていたが、僕は思い出した様に鞄に手をのばした。

「今日、ナァ達が調理実習でクッキー作ったんだって。悟子にお土産」

ナァ曰く自信作らしい。
僕の取り出した小さな包みを手にし、あいつは「ありがとう」と呟いた。

「食える?」
「うん、少しなら」

僕は可愛らしいリボンを取り、小さめのクッキーをあいつに差し出した。


「いただきます」


僕もクッキーを頬張り、それを見たあいつも一口かじる。

僕が数枚食べる間に、あいつは一枚をようやく食べれた。

袋に手を延ばしながら、僕は逡巡しつつも口を開く。


「悟子…まだ食えないの?」


あいつの手が止まる。


「食欲…ないっぽいし。無理して食うこともないけどさ…やっぱ、食わなきゃ元気出ないだろ?点滴だって外れないだろうし…」




…正直少し焦っていた。

これ以上痩せると、何かしら体によくない影響を及ぼしかねない。

少しでもあいつに食べて欲しかったんだ。


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